by saichan_neko
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教会音楽を生業とする私にとって、もっとも身近でよく扱っている音楽が教会の礼拝や集会で歌われる歌、いわゆる「讃美歌」なのであるが、この名称に関して不思議でたまらないことがある。
「讃美」(または賛美)とはもちろん、神をほめたたえることを指すのだけれど、教会で歌われる歌は必ずしも神をほめたたえる内容ばかりではない。苦しみの中から救いを求めて祈る歌もあれば、信仰告白の文章に曲をつけたものもある。聖書の中の物語を歌にしたものもあれば、神からの祝福を願う歌もある。そういういろいろな役割の歌を総称した日本語の名称がなぜ「讃美歌」になってしまったのであろうか。あれこれ資料を調べてみたが、まだ理由らしきものは見つかっていない。(どなたかご存知でしたら教えて下さいm(_ _)m) ドイツ語では"Kirchenlied"または"Kirchengesang"(どちらも「教会の歌」)という、単純な言葉を使う。"Choral"(「コラール」というドイツ特有の教会で歌われる歌の名称)が「讃美歌」なのではないかと思う人もいるかもしれないが、"Choral"はラテン語の"choralis" 「合唱の」からきた単語で、「賛美」という意味合いは一切含んでいない。賛美のための歌のことは、"Lobgesang"または "Loblied"とわざわざ区別していう。 日本でも教会によっては「聖歌」と称しているが、この方がわかる。キリスト教でいう「聖」は清いという意味ではなくて、普通は「神のもの」という意味として使われているのだから、教会で歌われる歌が「聖」歌であってもおかしくはない。 なぜ私がこのことにこだわるのかというと、簡単に言えば「音楽=賛美」という一面的な理解が、日本での教会音楽の多様化と浸透の邪魔をしているような気がするからである。 確かに神をほめたたえるために音楽演奏をしたり、歌を歌う時もあるが、それは教会音楽の多種多様な役割のうち、ごく一部にすぎない。しかし、礼拝の中で音楽演奏があったときに、司会者が「素晴らしい賛美をありがとうございました」といったり、また歌を歌う時に「ご一緒に讃美歌OO番で主を賛美しましょう」などというのを聞くと、教会音楽が「賛美」の一言にすりかえられ、本来の多様な役割を発揮する場を失ってしまっているような印象を受けるのである。 また音楽を全て「賛美」とし、「賛美しましょう」という言葉を繰り返すことによって、「盲目的に神をたたえる人たちの集団」という印象を外部の人たちに与えてしまっていることも事実だ。「歌を歌うことで洗脳しているのではないか」という疑いを持たせてしまうのである。実際に音楽にはこの効果もあるため、音楽を重視しすぎることは歴代の、特に改革派の神学者たちに非常に懸念されてきた。ルターをその音楽重視の考え方ゆえに「悪魔に取りつかれている」と皮肉った有名な諷刺画もあるくらいだ。余談だが、我々教会音楽家には、音楽がこういう間違った使い方をされないように、バランスに気を付ける義務もあると私は思っている。 ヨーロッパのキリスト教において、「音楽」は神からの賜物として非常に大切にされてきた伝統がある。皆に聞いて回ったわけではないが、日本でも礼拝の中に音楽があることはいいことだと思っている人の方が多いと思う。もし、礼拝の中で音楽を効果的に使うべきだと思うのであれば、「音楽=賛美」という一面的な見方や言葉遣いをも考え直して欲しい、と私は教会音楽を扱う者として心からお願いしたい。(とはいっても、今更教会で歌う歌を「讃美歌」以外の名称にすることは不可能に近いと思うが。)そして、歌を歌う時、それぞれの歌の歌詞に目を留めて欲しいと思う。そこには賛美以外の、いろいろな祈りや神との関わり方が含まれていることが見えてくるだろうから。 例えば私たちはいくら信仰を持っていても、率直なところ、いつでも「神をほめたたえる」心境にあるわけではない。落ち込んでいる時や打ちのめされている時には、神に恨み言を言いたい時だってあるはずだ。そういう心境を映し出した歌や音楽も実はたくさんある。また、不安がいっぱいでいても立ってもいられない時もあるだろうが、そういう心境を反映した歌や音楽もたくさんある。そういう「音楽自身が持つメッセージ」を読み取り、礼拝の流れに歌や音楽演奏を上手く組み込んでいくことによって、初めて礼拝の中での音楽が生きたものとして、そして神からの賜物として、礼拝参加者のために本来の力を発揮するようになるのだと思う。
by saichan_neko
| 2004-11-03 06:30
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